大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和31年(あ)310号 決定

本籍

岡山県邑久郡裳掛村大字虫川一五〇一番地

住居

東京都渋谷区幡ケ谷中町一四一八番地

厚生事務官

東原楠夫

明治三八年七月九日生

右収賄被告事件について昭和三〇年一一月一日東京高等裁判所の言渡した判決に対し被告人および原審弁護人堀家嘉郎から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人堀家嘉郎の上告趣意第一点について。

所論は、原判決は相牴触する証拠に基いて事実を認定したもので、最高裁判所の判例(昭和二三年(れ)第一三一二号、同二四年二月二四日第一小法廷判決、集三巻二号二三八頁)に反すると主張する。しかし新刑訴三三五条一項は、ただ「証拠の標目」を示すだけで足りるとし、いかなる証拠でいかなる事実を認めたかの理由の説明を要求していないから、判決に掲げられた証拠相互の間に相牴触するものがあるからといつて、直ちにこれらを総合して事実を認定したものと速断することはできないのみならず、かかる場合について「原判決に証拠の標目として掲げられた証拠の中、判示にそわない部分は、原審が証拠としなかつたものと解することができる。」とするのが当裁判所の判例である(昭和二六年(れ)第二〇〇一号同年一二月二五日第三小法廷判決、集五巻一三号二六三〇頁。なお、昭和二五年(あ)第一一六一号同二七年六月七日第二小法廷決定も同旨。)。原判決もまたこれと同趣旨に出でたものであり、この点に関する原判断(弁護人の控訴趣意第三点に対する判断)に所論の如き違法はなく、論旨引用の判例は本件に適切でない。論旨はこの点で失当である。

同第二点について。

所論は、訴訟法違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお所論について調べてみるに、仮りに本件公訴事実が請託収賄でありとしても、事実審が審理の上単純収賄と認めるときは、公訴事実の同一性を害せずかつ被告人の防禦に実質的な不利益を生ぜしめない以上、訴因変更の手続を要せずその有罪を認定することができると解するを相当とする)。

同第三点について。

所論は、刑訴四〇五条の上告理由とならない。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例